七月十一日 木曜日

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 つまり、静にとっては、ウィルになってしまった、という事象に関しては懐疑的だが、今の直人の状況は心配だ、ということか。いかにも静らしい冷静な判断だった。  もちろん、本当はウィルになったことも信じてくれれば一番いいのだけど。なんにせよ、親身になってもらえるのならありがたい。  内心ちょっとだけほっとしていると、口元に手を当て考え込んでいた篠塚が、ふと思いついたように口を開いた。 「毎回同じ猫になってるんですよね?」 「ん? そうだけど」 「その猫、何か特殊な猫なんじゃないですか?」  ――ウィルが? 特殊な猫?  思いがけない発言に、瞬時には反応できなかった。直人自身、猫になってしまう、などと冗談みたいなことを相談しているわけだが、篠塚の発言はそれに輪をかけてバカげている。  ふざけているのかと思って、狭いテーブル越しに肩を叩こうとすると、真向かいにすわる静の顔が目に入った。切れ長の目を見開いて宙を見ている。 「え? 遠野?」 「そういえば……」  かすれた声の呟きは、店内を流れるにぎやかな音楽のせいで、うまく聞き取れない。 「え、何? なんかあったっけ」
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