七月九日 火曜日

10/28

210人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「直人、部室で勉強してく?」  放課後、ガタガタと騒々しく席を立つ生徒の間をすり抜けて、同じ部活の田辺優(タナベユウ)が声をかけてきた。  優はバスケ部の中では珍しく直人より小柄な、直人の友人だ。やさしげな容姿でにっこり笑いかけられると、テストの間に疲労した脳が癒されていく。 「うん、行く」  かばんを担いで立ち上がり、ふたり連れ立って部室棟へ向かう。  部室を覗くと、すでに何人かの生徒が来ていた。 「お疲れさまです」 「おー」  先輩や後輩に適当に挨拶しながら、空いている席に座る。  直人の所属するバスケ部は仲が良い。部活のないテスト週間の間も、自然と部室に部員が集まる。  気の置けない仲間と和気藹々と勉強するのは楽しいし、去年改装したばかりの部室はみんなの自慢でもあった。ただし一つだけ難点があって、それは部室にエアコンがないことだ。  窓もドアも大きく開け放たれ、一機しかない扇風機がフル稼働しているが、座っているだけでじっとりと汗ばんでくる。 「……暑い」 「まぁ、七月だし、しょうがないよ。ほら、明日直人の苦手な数学あるよ。夏休みの間、補講受けたくないでしょ?」
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加