七月十一日 木曜日

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 身を乗り出して尋ねると、静はしっかりと直人の目を見つめて口を開いた。 「橋本先輩、ウィルをくれたひとのこと、覚えています?」 「うん、確か、遠野の家の近所に住んでた、変わり者のおばさんの飼い猫がこどもを生んで……」 「何で変わり者、って言われてたか覚えてないですか? あのひと、魔女だっていう噂があったんです」  魔女。  とつぜん出てきたファンタジーな単語に、びっくりして固まってしまった。普段はむしろちょっと冷たく感じるくらい現実主義の静が言い出したので、落差が余計におかしい。  何言ってんの? と突っ込みたいところだが、直人自身、猫になってしまう、などという非現実的なことを相談している身の上なので、言い出しにくい。  助けを求めるように残りのふたりを見やる。優はもともと丸っこい目を見開いて静を見ていたし、自分から言い出したくせに篠塚は半笑いだ。 「いやいや、魔女って」  もちろん、静だって心からこれだ! と思って言ったわけじゃないだろう。ちょっと呆れたトーンで詰られて、珍しく少し気まずそうに目を伏せている。 「分かってる。……でも、可能性の一つというか」 「あぁ、まぁ、そうだよな」
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