210人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
夕飯を終え、ちょっとごろごろしてから自室に戻る。時計を見ると、午後八時近かった。
それなのに、静が来ない。
いや、普通は来ないのが当たり前なんだけど。ここ数ヶ月当たり前みたいに入り浸っていたから、急に来なくなると、なんだか調子が狂う。
その代わりみたいに、隣家の愛猫であるウィルが堂々と直人のベッドに寝転んでいた。飼い主によく似た厚かましさに、ちょっと笑ってしまう。
「なぁ、ウィル。お前のご主人さまって魔女だったの?」
話しかけても当然ウィルは何も答えない。平和な寝顔と、呼吸に合わせて浮き沈みするふわふわのお腹。どこからどう見たって、ただの猫だ。
「お前、魔法が使えるの?」
重ねて問いかけると、眠たげな茶トラはうっすらと片目を開けてこちらをちらりと見た。明るいヘーゼル色の瞳がきらりと輝く。シーツの上に前足をそろえて立ち上がったかと思うと、次の瞬間、音も立てずに窓から外へ飛び出して行った。
風のように立ち去ったウィルを見送って、揺れるカーテンをぼんやり眺める。ひらひらとはためく濃紺に、気付けば引き寄せられるように手を伸ばしていた。
最初のコメントを投稿しよう!