七月十一日 木曜日

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「……先輩は俺とキスしたこと、気にしてないんですか? 俺がそっちに行ったら、またされるかも、とか思わない?」  あんまりにもらしくない、囁くようなちいさな声で尋ねてくるから、びっくりして真正面から見返してしまった。 「え? だってしないだろ?」  そんなの、もししてもらえるならラッキーだけど。きっとしないだろう。  特に根拠はないけど、自信を持って答える。すると静はかろうじて浮かべていた苦笑いすら消して、うつむいてしまった。 「………………」  広い背中が撓んで、肩に乗っていたウィルがずり落ちる。小柄な茶トラはか細い鳴き声だけを残して、切り取られた窓枠から見えなくなった。  静は夜風に髪をゆらしながら、足元をぼんやり眺めている。いつも通りの無表情なのに、なんだか妙に寂しそうに見えて、頭を撫でてやりたくなる。  だけど、もし実際にそんなことしたら、静は怒ってしまいそうだ。『止めてください、どうせ何にもわかってないくせに』とか。ちょっと想像してみただけのはずなのに、嫌になるほど正確に静の声音まで再現出来るのは、ひょっとしたら前にもそんなことがあったのかもしれない。
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