七月十一日 木曜日

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「……沢村(サワムラ)とも、キスしたんですか?」 「へ? 沢村?」  ようやく静が口を開いた、と思ったら、脈絡なく挙げられた人名に首をかしげる。沢村という名前で思い出せるのは一人しかいないが……。 「中学の頃、付き合ってたじゃないですか」 「あぁ、あかりのこと? よく覚えてたなー! たったの三ヶ月で自然消滅しちゃったのに」  沢村あかりは中学のときのバスケ部のマネージャーで、向こうから告白してきてくれて付き合うことになった。お互いに特に大きな不満はなかったと思うのだが、ままごとのような付き合いは長く続かず、徐々に疎遠になり、何となく破局した。多分お互いに付き合う、という行為をしてみたかっただけで、本当の意味での恋愛感情はなかったと思う。 「ひょっとして今の今まで忘れてたんですか?」 「そんなわけないだろ! 一応おれの歴代一人しかいない恋人だぞ! お前がおれとあかりのことを覚えているなんて思わなかったんだよ」  幼馴染みの語り口はあくまで軽いから、直人もいつものノリで返す。だけど、目線が交差することはない。静はこちらを見ているようで、僅かに視線をそらしている。
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