七月十一日 木曜日

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 ぽい、と無造作にベッドに放り投げられる。ベッドも猫の身体もやわらかくて、痛くはないが、せっかくがんばって移動したのに物のように扱われて愉快ではない。もう一度ベッドから下りて椅子へ近づくが、今度は椅子の下に行く前に、静に捕まえられてしまった。  たしたしと前足で立派な腕を叩いて出て行きたいのだと主張してみるも、静はぎゅうと力を込めて抱きしめてくるので動けない。何とか脱出しようと格闘していると、焦れた静が脇の下に手を入れて持ち上げ、目線を合わせてきた。  間近に黒々と濡れた瞳が迫り、はっと息を飲む。見慣れきったはずの整った顔だが、至近距離で見せられるといまだに心臓に悪い。  耳をぺたんと伏せて動揺している茶トラの直人に、静はイライラと口を開いた。 「あんな鈍感バカのとこ、行くな!」 (鈍感? バカだって?!)  静はなぜだか眉間に深いしわを刻んでいた。鼻息も荒く何かに憤っているかのように見える。  何かに──……直人に?  だけど、どうして?  それに、なぜ鈍感バカなんて言われなきゃいけないんだろう。
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