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七月十二日 金曜日
ベッドの上で、不意にぱちりと目が開いた。いきなりまともに焦点の合った世界を突きつけられ、息がつまる。
初夏のまぶしい光の差し込む自分の部屋。朝になったのだと分かるまで、ちょっと時間がかかった。
寝転がったまま、手で顔を覆い、荒くなっていた息を整える。夏だというのに、指先は氷のように冷たい。ウィルになった翌朝は、いつも強い不安に襲われる。
なすすべもなく暗闇に落ちていくような、絶望感。叫びだしそうな恐怖を、目を瞑って堪える。
力の入らない身体を横たえたまま、深呼吸を繰り返すと徐々に思考がクリアになっていく。昨夜ウィルになったときに起こった出来事を思い返して、直人はますます混乱した。
ウィルになった直人は静の部屋にいた。そして静は、直人に怒っていた。だけどどうして?
昨夜、寝る前に見た静は直人をからかって、むしろいつもより機嫌がいいくらいだったはずだ。それが、ウィルになったときに出会った静は、バカだの鈍感だの、ひどい罵りようだった。意味が分からない。
怒っていたのが一昨日の夜ならまだ納得できる。あの夜、静はイライラしていた。でも、そういえば何に腹を立てていたのか、結局直人は教えられていない。
目元を覆っていた手を動かすと、頭の上の方でやわらかい感触にぶつかった。
「ん?」
握りこんでみると温かい。慌てて起き上がると、掴んでいたのは静の手だった。枕元に座り、直人の顔を覗き込んでいる。
「おま、お、おまえ、何やってんの!?」
「おはようございます。朝からテンション高いですね」
「いや、普通に誰でも驚くだろ!」
思わず大声を出した直人に、静は不快げに眉を寄せた。
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