七月十二日 金曜日

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 頭を撫でると黒猫は喉を鳴らして返事をした。開いた扉の隙間から味噌汁の香りが漂ってきて、そういえばお腹が減っていることを思い出す。ウィルになったり、起き抜けに突然幼馴染が枕元に居たりと、衝撃的なことがありすぎて、空腹を忘れていた。  なめらかな黒い毛皮を撫でていると、またしても静がじっとこちらを見てくる。いつも静は真っすぐに目を合わせてくるけど、いくらなんでも今朝は見すぎだと思う。 「そ、そういえばさ、どうして遠野までウィルを飼うことになったんだっけ?」  気まずさに押し出されるようにして、以前から気になっていた質問が口をついて出た。  イギリスに居たとき、寂しさを紛らわせたくて、直人はペットを飼いたいと言い出した。  確か静は当初、変わり者だという噂の女性から猫をもらうことに反対していたはずだ。それなのに、いざ受け取りに行ったら、静も一匹連れて帰ると言い出した。そのことは、ずっと不思議に思っていたのだ。 「言ったことありませんでした? 先輩と同じ理由ですよ」 「おれと同じ?」
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