七月十二日 金曜日

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「おー、じゃあ、帰るか」  応じて立ち上がったところで、不意に携帯電話が鳴った。直人のではなく、静のものだ。  素早い動作でかばんから取り出し、画面を覗いた静の顔色が変わった。迷うことなく携帯電話を耳に当てる。 『ハイ、ダニエラ』  薄い唇が紡いだ名を聞いて、誰だろうと一瞬思ったけど、すぐに思い出した。昨晩静が言っていた、ウィルとクロを譲ってくれた女性の名前だ。あちらはまだ早朝のはずだけど、そんなに緊急の要件なのだろうか。  突如英語で話し始めた級友に、にぎわっていた部室はシン、と静まり返った。おかげで電話のスピーカーから、電話相手の声まで薄っすら聞こえる。  はっと気づいた静が携帯を持ったまま部室を出ようとしたが、その前に直人が静の腕を掴む方が早かった。 「おれのこと、話してるんだろ」  直人は、静のように流暢に英語を話せない。だけど、一応ヒアリングだけなら、それなりに出来る。  電話越しに聞き取れたのは、いくつかの不穏な単語だった。猫、魔女、危険、命に係わる――……。 『分かってる、あぁ』  しかし、静に動じる様子はない。 『確認してみる。ありがとう、あなたもお元気で』
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