七月十二日 金曜日

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 電話していたのは長い時間ではなかった。通話を終えた静と直人は、部員たちの好奇の視線を避けるように、挨拶を済ませて部室を出た。 「……静、ダニエラ、なんて言ってた?」  連れだって昇降口へ歩きつつ、幼馴染に問いかける。静はわずかに視線をそらしたまま口を開いた。 「ダニエラは、自分は魔女ではないと言っていた。魔女になりたかったけれど、才能がなかったんだとか。彼女の家系は代々続く魔女の家系で、特に祖母は優秀な魔女だったらしい」 「魔女……」  何となく予想していたにも関わらず、やっぱりあまりにも荒唐無稽な話だった。だけど直人以上に現実主義なはずの静が、笑いもせず淡々と話すから、どう反応したらいいのか迷う。  苦笑する直人をちらりと見て、静はため息をついた。 「バカバカしい、って思ってるんだろ。俺もだ。でもダニエラは、その、自称魔女の祖母が残した手記に、猫と対話をする方法らしきものをみつけたから、とにかく試してみたら、と」  遠くの方ではまだ練習を続けている吹奏楽部の音がする。廊下には自分たちと同じ制服に身を包んだ生徒もちらほらいて、平和に続く日常と会話のギャップがすごい。
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