七月十二日 金曜日

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 裾を引っ張られた静が、眉を寄せて振り返る。緩慢な動作は物憂げで、機嫌が悪そうにも見えるが、多分そうじゃない。  シャツを握りしめた直人の手をそっと外して、静は口を開いた。 「ダニエラが言うには、入れ替わりの魔法なんて、よほどのことがない限り使わないはずだと。それこそ、命に係わる危険でも迫っていない限りは」  寄る辺を失い、頼りなく揺れる直人の手を、静の手が包む。つないだ手は少し汗ばんでいて、それが暑さのせいだけではないと分かってしまう。 「遠野、お前、知ってたんだな、そのこと」  直人を見下ろす切れ長の目元には、薄っすらと隈が浮いている。静が一睡もせずに一晩中見張り続けてくれたのは、それほど真剣に直人を心配していたのだ。 「……先輩と別れた後、ダニエラから電話があったんです。ダニエラの家には、たまに魔法が使える猫が産まれることがある。だけど、それほど大きな魔法を使うなんて、よほどの理由がないとおかしいから、気を付けるように、と」  ぽつりぽつりと語る静の声は決して大きくはないのに、いやにはっきりと耳に届いた。 「おれ、何か今すごい危ない状態なのか……?」 「…………」
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