七月十二日 金曜日

12/34

210人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 静は答えない。静は昔から誠実で、嘘を言わない。 ――大丈夫。何があっても俺が居る  ほんの数日前、初めて猫になった日の翌朝。半狂乱になった直人を、静は理由も聞かずに抱きしめてくれた。大丈夫だと、言ってくれた。  何があっても、助けることが出来ると思っていたから。 「し、死ぬかもしれないってこと……?」  だけど、こんな未知の状況では、何をどうすればいいのか分からない。助けるも何も、何が起こっているのかさえ、よく分かっていないのだから。  ぶっきらぼうだけど、その実やさしい幼馴染は、嘘を言わない。ただ目を伏せて、握る手に力をこめる。  しばらくふたり、手をつないだまま、呆然と立ち尽くしていた。  寝ている間に隣家の飼い猫になってしまう。しかし、そのとき起きた出来事を当人に訊いても、そんなことはなかったと否定される。  現実に起きている出来事なのかすら、いまだに分からない。そんな中、今度は命に係わる危険が迫っている可能性が出てきた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加