七月十二日 金曜日

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「俺が、気にするんです。だいたい、何でそんなにうちがいいんだ。橋本先輩の家にだって、寝る場所くらい他にもあるだろ」 「……現場検証したいんだよ。おれ、ウィルになってる間、何度も静の家に行ってるだろ。ウィルになっているときに見た景色が、現実のものか、確かめたい」  真っすぐに切れ長の目をのぞき込んで訴える。眉間の皺を深くした静は、しばし逡巡した末にしぶしぶ窓を大きく開いてくれた。どうやら、入れてくれる気になったらしい。 「分かりました。二時間五千円で」 「金取るのかよ! しかもすげぇ高いじゃん!!」  しらっと真顔で要求してくるから、弾みかけた気分が一瞬でしぼんだ。恨みがましい目で睨んでも、静は知らん顔だ。 「イヤならやめときましょう」 「……払う! 払えばいいんだろ!」  ほとんどヤケクソで叫んでから、窓から身を乗り出す。  窓枠に身体を預けてみると、そこそこ高さがあって怖い。いつも静は軽々と乗り越えてくるけれど、直人がここから静の部屋へ行くのは、中学生のころ以来だ。  怖々下を覗き込んでいると、後輩はため息をついて手を差し出してきた。 「ほら」 「悪い……」
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