七月十二日 金曜日

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「そう思うんなら、来ないでくれます?」  口では冷ややかに言いつつも、部屋に降り立った直人をしっかりと支えてくれる手つきはやさしい。背に回された力強い腕の温度を感じながら、思いがけない幸運をこっそりかみしめる。 「ありがとな」 「……いや」  しかし、直人の密やかな幸福は、ふと鼻をついた異臭のおかげで長くは続かなかった。 「静、これ、どうしたんだ!?」  改めて周囲を見回して、驚いた。  まず、部屋が異常に暑い。エアコンはおろか扇風機すら動いている気配がない。  その上そこら中、見たことがないくらい散らかっている。普段どれくらい静の部屋が片付いているのか知らないが、明らかにこれは異常である。  机の上にはなぜか酒や油など、様々なボトルが並んでいて、ボウルの中で謎の液体が悪臭を放っている。その上床にはよく分からない模様の書かれた紙が落ちていた。 「お前、これ、ひょっとして……」  ドン引きして振り返る。静は頑なに目をそらしたまま、腹の底から低い声を出した。 「……最近、趣味で始めたハーバリウムです」  そんなわけがない。
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