七月十二日 金曜日

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 覇気のない声を背に、廊下に出る。すると床ではウィルが吞気に寝転がっていた。あんまり静の部屋が暑いから、ここに避難してきたのかもしれない。  最初にウィルになってしまったときの景色を思い出しながら、床にはいつくばって、ドアを見上げてみる。ただ居るだけで汗が湧き出てくるほど暑い室温に比べて、頬を付けたフローリングはひんやりとして気持ちいい。  あのときの視界はぼんやりとしていて、今とは見え方が違うけれど、確かにこの景色だ。  やっぱり、あれは現実にあったことなんだ。 「どうですか」 「……多分だけど、やっぱり俺、この景色見たことある。ウィルになってここに居たんだと思う」 「そうですか……」  低い位置からドアを眺めていると、不意に脳裏に男の声がこだました。静に愛を告げた、悲鳴のような男の声を。  最近バタバタしていてそれどころじゃなかったけど、そういえばあのとき、静は誰かに告白されていたのだ。  好きだと自覚してから改めて考えると、余計にイライラする。 「じゃあ、そろそろ自分の部屋に帰ってください」  床に転がったままぼんやりしていた直人に、無情な声がかけられた。
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