七月十二日 金曜日

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 どんどん大きくなっていく声を、お互いに止められない。握りしめた腕の温度も、ゆだるように暑い蒸した空気も、直人の冷静さを奪っていく。  考えるより先に、口が動いていた。 「アイツなんかより、絶対おれの方が静のこと、好きだ! おれ、気づいたんだ、ずっと……ずっと前からお前のことが好きだった……!」  そう叫んだ途端、顔から血の気がひいた。  今のセリフは。  のぼせていた頭に、上から冷水をかけられたような気分だった。  この言葉を、言葉に込められた熱量を、どこかで聞いたことがある。 ――ずっと前からお前のことが好きだった……!  そうだ、これは。ウィルになってしまった最初の日、静の部屋の前で、直人が聞いたセリフそのものだ。 「……え、何で……?」  どうしてあのときのセリフが、今、直人の口から出た?  これまで起こったさまざまなことが、めまぐるしい勢いで脳の中を駆け巡る。  最初にウィルになったときに聞いた告白が、今直人の口から出たものだった? そうだとしたら、次の日、静に訊いたって、静が知っているわけがない。  だってそれは、まだその時点では起こっていなかったことなのだから。
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