七月十二日 金曜日

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「……! そうだ、ウィルだ!」  もしそれが本当なら、さっき廊下にいたウィルは。  あのウィルの中に、直人が居るはずだ。  慌ててドアを開けると、果たしてそこにはまだ毛足の長い茶トラがいた。直人と目が合うなり背を向けて、音も立てずに薄暗い廊下を歩き出す。 「ウィル!!」  呼びかけると、小柄な猫は一度だけこちらを振り向いた。けだるく「ニャオン」と一声鳴いて、階段を駆け下りる。直人は呆然としたまま、遠ざかっていく軽い足音を聞いていた。  静に告白していたのは、未来の直人自身だった。  自分でもまだ信じきれない。  しかし、ひとつ謎が解けると、後はもう連鎖的に答えが閃いた。  二度目にウィルになったとき。あのとき静は暗い部屋でただ直人のことを見ていた。そうだ、今日の朝、静が言っていたじゃないか。『昨日、一晩中、直人のことを見張っていた』と。あれは昨晩、つまり十一日のことだった。  そして三度目にウィルになったとき、静は怒っていた。怒っていた日なら知っている、あれは静とキスをした日、十日のことだ。 「え? ……これ、つまり……」
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