七月十二日 金曜日

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 幸い、真正面から向けられる視線に嫌悪感は見えない。良くできた彫刻みたいに無表情だけど、直人の足に置かれた手のひらはじっとりと熱い。  その体温に少し安堵して、直人は堂々と開き直ることにした。 「本当じゃなきゃ、こんなこと言えるかよ」  いっそ熱量すら感じさせる、強い眼差しを受け止めて見つめ返す。表情を失った静が、この先何て言うのか、まるで分らなくて、怖い。こめかみを汗が伝った。 「嘘じゃない?」 「嘘じゃない」 「冗談じゃなくて?」 「なんだよ、疑い深いな。おれがやっぱり嘘でした、って言うまで訊くつもりか? 悪いけど、けっこう覚悟して告白してる。嘘だなんて絶対言ってやらないからな」  やっぱり直人の告げた告白を、なかったことにしたいのだろうか。口に出したのは確かにほんの弾みだったけど、その気持ちに嘘はない。猜疑心も露わに繰り返し念を押されると、好きだという気持ちを否定されている気分になってくる。
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