七月十二日 金曜日

26/34

210人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 何を言われても泣かないように、唇をかんで睨みつける。しかし不意に無表情だった静の目元がくしゃりと歪んだ。伸ばされた大きな手の平が、一瞬だけやさしく頬にふれ、そのまま縋るように直人の背に回される。 「今さら嘘だ、って言っても、もう遅い。信じない。嘘だなんて、言わないでくれ」  直人の肩口に押し付けられ、くぐもった声は震えていた。肩を抱く腕には痛いほどに力が込められていて、その必死さに息が詰まる。  予想だにしない展開に直人は身体を硬くすることしか出来ない。 「し、静、」 「俺も、ずっと直人のことが好きだった」  耳元で告げられた言葉があまりにも意外すぎて、すぐには何を言われたのか分からなかった。  熱を帯びた静の声を、何度も頭の中で繰り返して、ようやく徐々に思考がクリアになっていく。 「……う、うそだろ!?」  とっさに叫んでしまうと、静はくっ付けていた額を離して、睨みつけてきた。 「嘘だなんて、言わないんじゃなかったのか」 「いや、そういう意味じゃなくて、……だって静、おれのこと嫌いだろ?」
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加