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何を言われても泣かないように、唇をかんで睨みつける。しかし不意に無表情だった静の目元がくしゃりと歪んだ。伸ばされた大きな手の平が、一瞬だけやさしく頬にふれ、そのまま縋るように直人の背に回される。
「今さら嘘だ、って言っても、もう遅い。信じない。嘘だなんて、言わないでくれ」
直人の肩口に押し付けられ、くぐもった声は震えていた。肩を抱く腕には痛いほどに力が込められていて、その必死さに息が詰まる。
予想だにしない展開に直人は身体を硬くすることしか出来ない。
「し、静、」
「俺も、ずっと直人のことが好きだった」
耳元で告げられた言葉があまりにも意外すぎて、すぐには何を言われたのか分からなかった。
熱を帯びた静の声を、何度も頭の中で繰り返して、ようやく徐々に思考がクリアになっていく。
「……う、うそだろ!?」
とっさに叫んでしまうと、静はくっ付けていた額を離して、睨みつけてきた。
「嘘だなんて、言わないんじゃなかったのか」
「いや、そういう意味じゃなくて、……だって静、おれのこと嫌いだろ?」
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