七月九日 火曜日

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「おま、お、お、お前っ、普通に渡せよ!」  喚く直人に取り合わず、静は少し離れた席に座る。何を怒っているのか、返事もしてくれなかった。  まだ心臓がバクバクしているのを誤魔化して、椅子に座り直す。  一応、先輩なのに、遊ばれている。だが、渡されたジュースは、ちゃんと直人の好きな銘柄だった。バカにしたいのか、好意を見せてくれたのか、いまいちよく分からない。  それでも冷えたドリンクに罪はない。口に含むと心地よく、先ほどよりは各段に能率が上がった。  調子よく何問か解いたところで、右隣に座る篠塚が声を潜めて話しかけてきた。 「前から気になってたんですけど、遠野って、いくらなんでも橋本先輩に対して態度デカすぎません?」 「……お前もたいがい生意気なタイプだと思うけど。案外そういうこと、気にするんだ」 「中学んときの部活が、上下関係厳しいとこだったんで、癖で。先輩が不快に思っていないんなら、俺がどうこう言うようなことじゃないとは思うんですけど」  教科書に視線を据えたまま、言いづらそうにぼそぼそと口を動かす篠塚の意外な一面を知ってしまった。
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