七月十二日 金曜日

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 真正面から見ていられなくて目を伏せると、あごに手を添えられ、視線を上げるように促された。 「分かるよ。ずっと片想いしてたんだから」  至近距離で告げられると、止めようもなく頬が赤くなってしまう。一応静よりは一つ年上だし、彼女が居たことだってあるんだから、もっと落ち着いていたいのに。胸がドキドキして上手くいかない。 「……イ、イギリスに居た頃ならまだ分かるかも。あの頃のお前、おれのこと完全にお姫さま扱いしてたもんな」 「直人だって嫌がらなかったじゃないか」 「だって、大事にしてくれるのはふつうに嬉しかったし。そりゃ、ときどきなんか違うような気がするとは思ったけど。そのニュアンスを上手く伝えられる英語力がなくて」  砂糖菓子でくるむように大切にされることは、決して不快ではなかった。静はあの頃から直人にとって、なりたい理想像そのもので、憧れている相手から甘やかされるのは、どこか得意でもあった。  違和感はあったけれど、それは見過ごせないレベルではなくて、伝えそびれたまま日本に帰国した。
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