七月十二日 金曜日

32/34

210人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
「直人、」  静の唇がゆっくりと近づいてくる。  元々ほとんど距離がなかったから、くっついてしまうのは一瞬だった。 「ん、」  静とキスするのは二度目だけど、一度目はあんまり急すぎて、よく覚えていない。それを取り戻すみたいに、しばらく唇を触れ合わせたまま静は動こうとしなかった。  唇に灯るあたたかくてやわらかい感触で頭がいっぱいになる。唇を離してからもしばらくは胸がどきどきして、息が苦しかった。 「あ、お、おれ……」  かぁっと赤くなる頬を隠そうと俯くと、ぎゅっと抱きしめられた。 「かわいい」  耳から流し込まれる蜜に、脳みそまで溶けてしまいそうだ。  見つめ合っていると、静の黒い瞳がとろけていく。ぎゅう、と力いっぱい抱きしめられて、直人の胸に温かいものが広がった。  しばらく幸せに浸っていたら、不意に静が圧し掛かってきた。 「え?」  そのままズルズルと押し倒されて瞠目する。ベッドの上だから痛くはなかったけれど、これは、まさか……。 「おい、し、静?」  顔を覗き込むと、直人の上に覆いかぶさったまま、静はすやすやと寝息を立てていた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加