七月十二日 金曜日

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 ちょっとやそっとの刺激じゃ起きそうもない静をぐいぐい押しやって、ベッドにスペースを確保する。シーツの上に転がると、静の匂いがした。  そういえば、久しぶりに静の部屋に入ったのに、緊張してそれどころじゃなかった。  徐々にぼやけていく視界の端に、黒く美しい毛並みが目に入った。 「クロ……」  今までどこにいたのか。黒猫は直人を見つけて当たり前のように直人のそばに来て丸くなる。その横にふわふわした茶色の塊が寄り添った。 「……ウィル……」  やがてエアコンが効き始め、室内に心地よい風が流れる。  静に告白した男の正体が分かった。  静に好きだと言ってもらえた。  それに、きっとこの先二度と、猫になることはない。  直人は満ち足りた気分で瞼を閉ざした。  もう、直人がウィルになることはなかった。
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