七月十三日 土曜日 エピローグ

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 ページをめくる静は相変わらずの仏頂面だ。しかし、ウィルが出てくるページになると、鋭い眼差しがわずかに緩くなるから、直人の胸中は複雑だった。 「そりゃあ、ウィルのおかげだし」  静は、直人が昨晩何があったのかを話してから、ウィルがふたりの縁を繋いでくれたのだと主張していた。報われない片想いをしていた飼い主である静を救うために、命をかけて直人に魔法をかけてくれたのだと。 「そうかぁ……? あいつ、ちっさいけど食い意地張ってるし、そんな殊勝な猫だとは思えないけど」 「何だよ、直人、ウィルに嫉妬してんの?」  ようやく子猫の写真から目を離した静が、直人を見て笑う。 「そんなわけないだろ!」  機嫌よさそうにからかってくる静に、直人は言い返して――そこで、強いデジャブを感じた。  自分の部屋で、アルバムをはさんで穏やかに会話する直人と静。  このシチュエーションに、覚えがある。  鼓動がバクバクと音を立てて鳴り出した。そしてはっきりと思い出す。  夢を、見た。直人がウィルになってしまう前日に、見たやさしい夢。
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