七月十三日 土曜日 エピローグ

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 昔みたいに、静と直人が和やかに過ごしていた。静の持つアルバムを一緒に眺め、笑い合う今のふたりは、あのときの状況そのものだ。  あれがひょっとして夢じゃなくて、ウィルになってしまった直人が見た光景だとしたら?  あの時、もうウィルに乗り移ってしまうのが始まっていたのなら? 今、ここにウィルになった直人がいるということ?  突如、足元が崩れ落ちていくような感覚に襲われる。この感覚には覚えがある。ウィルになった翌朝に決まって襲われる、強い不安と絶望だ。 「直人? どうした?」  急に眼を見開いて声を失くした直人に、静は怪訝そうに首をかしげた。訝し気な静の声はただ直人の中を素通りし、部屋は静寂に包まれる。  冷えていく指先をぎゅっと握りしめたとき、翻る濃紺のカーテンが脳裏にフラッシュバックした。  はっとして窓に駆け寄る。 「直人!!」  直人の自室に掛かったカーテン越しに見えたということは、ウィルは窓の外からこの光景を見ていたということだ。  勢いよくカーテンを開いた窓の外の暗い闇の中に、果たしてウィルはいた。隣家の庇の上で悠々と眠っている。
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