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しかし次の瞬間、寝返りを打った茶トラは庇から転がり落ちた。
「ウィル!!」
必死に手を伸ばす。
すんでのところで直人はウィルをキャッチした。怯えた茶トラは尻尾を膨らませ、直人の腕に爪を立てている。
「どうしたんだ!? ……ウィル?」
追いかけてきた静が、ウィルを抱いた直人を後ろから覗き込んで、唖然とする。
「こ、これだ……!」
「え?」
「ウィルは、今、助けてもらうためにおれをウィルにしてたんだ……!」
腕の中の小柄な茶トラは、尾を足の間に挟んで震えている。窓の下は、打ちっぱなしのコンクリートだ。いくら猫とはいえ、落ちればただでは済まないかもしれない。まさに、命の危機だ。
ウィルを抱いたままへなへなと座り込む。驚きのあまり身体に力が入らない直人を、温かい腕が包み込んだ。
「ふたりとも、無事でよかった」
頬に柔らかい感触が触れる。その温度に引き上げられるように、直人は顔を上げる。
ほんの数センチ先にある精悍な顔は、相変わらずの仏頂面だ。けれど、よくよく見ると、切れ長の瞳の奥はやさしい色をしている。
「……しずか」
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