七月十三日 土曜日 エピローグ

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 しかし次の瞬間、寝返りを打った茶トラは庇から転がり落ちた。 「ウィル!!」  必死に手を伸ばす。  すんでのところで直人はウィルをキャッチした。怯えた茶トラは尻尾を膨らませ、直人の腕に爪を立てている。 「どうしたんだ!? ……ウィル?」  追いかけてきた静が、ウィルを抱いた直人を後ろから覗き込んで、唖然とする。 「こ、これだ……!」 「え?」 「ウィルは、今、助けてもらうためにおれをウィルにしてたんだ……!」  腕の中の小柄な茶トラは、尾を足の間に挟んで震えている。窓の下は、打ちっぱなしのコンクリートだ。いくら猫とはいえ、落ちればただでは済まないかもしれない。まさに、命の危機だ。  ウィルを抱いたままへなへなと座り込む。驚きのあまり身体に力が入らない直人を、温かい腕が包み込んだ。 「ふたりとも、無事でよかった」  頬に柔らかい感触が触れる。その温度に引き上げられるように、直人は顔を上げる。  ほんの数センチ先にある精悍な顔は、相変わらずの仏頂面だ。けれど、よくよく見ると、切れ長の瞳の奥はやさしい色をしている。 「……しずか」
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