七月九日 火曜日

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 篠塚は案の定、驚いた様子を見せたが、次第にうんうんとうなきだした。確かに遠野ってちょっと卓越した雰囲気出てるもんなぁ、と明後日の方向に納得しかけている後輩に、そうじゃないと慌てて舵を取る。 「違う違う。おれたち初めて会ったのは、イギリスなんだ。向こうは九月始まりだから……」  直人と静の親が働く会社は本社がイギリスにある、ばりばりの外資系だ。静は五歳のころからイギリスに住んでいて、その学校に転入生として直人が入学したのが最初の出会いだった。 「あぁ、なるほど。学年がずれて、早生まれの先輩と遠野は同じ学年になるわけだ。てことは、遠野も先輩も帰国子女? 英語話せるんですか? すげー! 格好いい!」  無邪気に賞賛の視線を向けられると決まり悪い。  シャーペンを握り直して、問題集に向かうふりをしながら、ひそひそ声で言い訳を呟く。 「いや、おれは二年間居ただけだから日常会話くらいなら何とか、ってレベルで。遠野は英語が母国語だよ」  篠塚も、形だけ教科書を持って体裁を整えたが、完全に上の空だ。 「運動できて、勉強できて、イケメンで、その上バイリンガルとか……才能の神様仕事が雑すぎる」
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