七月九日 火曜日

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 静はフローリングに座って、興味なさそうに置きっ放しになっていた雑誌を眺めている。することがないなら帰ればいいのに、とはちらりと思ったが、声に出して言えばまた何を言われるか分かったものではない。取り出した筆記用具を手に、黙って背を向けた。  しばらく机に向かっていると、窓の向こうからカリカリと微かな音がした。  ベッドに上がり紺色のカーテンを開くと思った通り、ふわふわした毛並みの茶トラがヘーゼル色の目を輝かせ、窓ガラスを引っかいていた。 「おれが思うに、ウィルがおれの部屋にしょっちゅう入ってくるのって、お前がここに入り浸っているからじゃない?」  窓を細く開け、小柄な猫を招き入れてやりながら、小さくこぼす。当の飼い主は返事をするのも面倒なのか、ちらりとも視線を上げずに無言でページをめくっている。あまりに遠慮がなくて、もはやこの部屋の主である直人より堂々としたものだ。  ベッドに凭れて座っているだけで撮影中のモデルみたいにさまになる、年下の幼馴染み。
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