七月九日 火曜日

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 僅かに湿った黒髪が張り付いた首元は、まだ十六になったばかりなのにはっとするほど男らしい。いつも無愛想でつまらなそうな顔をしているけど、たまに笑うととびきりやさしく見えて、女子が黙っていないのもよくわかる。 「お前さ、好きなタイプの子ってどんな子?」  思いきって尋ねてみると、ようやく静は直人に目を向けた。 「急に何ですか」 「お前がしょっちゅううちのクラスに来るから、クラスの女子によく訊かれるんだよ」  ベッドから下りて、片膝を立てて座る逞しい身体の真横にしゃがみこむ。ちらりと窺うと、思った通り静は苛立たしげに眉を顰めていた。  昔から静はモテるので、幼馴染みである直人にはこういった質問がよく舞い込む。素直にそれを静に伝えると必ず機嫌が悪くなるので、ずっと言わないようにしていた。 「それにおれも興味あるし」  だけどこれだけモテるのに、誰とも付き合うそぶりがないのはどうしてなんだろう。中学の頃はともかく、高校生にでもなれば彼女ぐらい欲しいと思うのが普通だと思うけど。  やっぱり怒られるのかなぁと、びくびくしながら返事を待っていると、不快げに皺を刻んでいた眉が驚いたように持ち上がった。
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