七月九日 火曜日

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「お前なんなの、めちゃくちゃ格好いい……こんなん言われて落ちない子いないだろ。羨ましすぎる」  イケメンの放つ圧迫感に耐え切れず、顔を覆ってうめく。しゃがみこんでいたはずなのに、いつの間にか床にしりもちをついていたから、ハンサムのオーラには物理的に作用する力があるのかも知れない。 「お前もう少女マンガに還れよ。何なの? 高校入ってから身長伸び悩んで、まるでもてなくなったおれにイケメンを見せ付けるっていう新しい虐めなの?」  尻で少しずつ後ずさりつつ、恨みがましい視線を向ける。そんな直人の背後から、にゃーん、と甘ったれた声がした。振り向いた直人を素通りして、ウィルが静の膝の上にのぼり、丸くなった。  気がつくと先ほどつけたエアコンがようやく効き始め、ちょうどよい室温になっていた。飼い主である静は手癖になっているのか、無言でふわふわの毛皮を撫でている。どうやら無意識のようだ。  あんな風に甘やかしてもらえるのが当たり前だなんて、猫は得だ。イギリスに居たころ、静は直人のことを、それこそ猫の子のように大事にしてくれたのに。
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