七月九日 火曜日

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 急いで距離を取り、息を整える。はぁはぁと荒い息を吐いていたら、切れ長の黒い瞳がじぃっと凝視してくるので居心地が悪い。気まずくなって、背を向けて椅子に座り、デスクライトを点ける。  静は黙ってしばらく直人の後姿をみていたが、やがて再び手元にあった雑誌をめくり始めた。  しばし部屋に文字を書く音だけが響く。  しかし、ほんの少し問題集を進めただけなのに、もう眠たくなってきてしまった。シャーペンを手にしたまま船を漕ぎ出した直人に気づいて、静は顔をあげた。 「先輩?」  返事をしようとしたが、眠気に負けて声が出ない。うとうとしていると、背後からやさしく肩がゆすられる。 「先輩、寝るんですか?」 「うぅ……まだ寝ない」 「って、もう目閉じてるし」  静は起こそうとしているのかも知れないが、こんな穏やかな声で言われたら逆効果だ。エアコンの冷気に冷えた肌に触れる手の平は温かくて気持ちがいいし、余計に眠たくなってしまう。  ほとんど意識が眠りへと落ちかけた中、ふわりと自分の身体が抱き上げられたのがわかった。そのまま危なげなくベッドへ運ばれ、上からそっとブランケットを掛けられる。 「しず……」
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