七月九日 火曜日

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 運んでくれてありがとう、といいたかったのに、睡魔に負けた口からは意味のある言葉はでなかった。 「……おやすみ、直人」  だから、静が部屋を出て行く前に聞こえたやさしい声は、ひょっとしたら聞き間違いだったのかも知れない。  窓ガラスが微かな音を立てるのを遠くで耳にしつつ、直人はゆっくりと意識を手放した。  こうして、いじわるな幼馴染みに日々手を焼きつつも、橋本直人は平凡でいてそれなりに幸せに暮らしているはずだった。  その夜突然、猫になってしまうまでは。 直人、猫になる  ふと眩しい光を瞼に感じて目が覚めた。  何かがおかしい。  昨夜は静とじゃれあった後、テスト勉強しようとしたのだけど、ほどなくして眠たくなってしまった。呆れ顔の静を尻目に、早々に寝てしまったのを覚えている。  だから、こんな固いフローリングで寝ているなんて変だ。  冷たい床板は存外心地よかったが、さすがにそのまま寝なおす気にはなれなくて、目を開いた。そして首をかしげながら起き上がろうとして、手足をうまく動かせないことに気づいた。  ぎょっとして自分の身体を見下ろし、さらに衝撃を受ける。
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