七月九日 火曜日

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 不審に思ってもう一歩近づいた直人の耳に、男のとんでもない発言が飛び込んできた。 「……ずっと前からお前のことが好きだった……!」  びっくりしすぎて、尻尾がぼん! と膨らんだ。  誰だか知らない男が、静のことを、好き?  パニクった頭でも、それが友愛を指していないことは分かる。  だって、想いを告げた男の声は焦燥を孕んで上擦り、熱情を湛えていた。何も知らない部外者の直人ですら、男の想いの強さに圧倒されたくらいだ。 (……何か、いやだ)  耳に届いた言葉が頭にしみこむにつれ、じわじわと不快感が溢れだしてくる。  だって静は直人の幼馴染みなのに。  かわいい女の子ならまだいい。それが、直人の知りもしない男と静が付き合うなんて。  もやもやとした黒い塊が胸の中に忍び込んでくる。  静は男の告白になんと応えるのだろう。万が一受け入れるような返事をしたら、どうすればいい?  何とかして室内に入りたくて、鼻面でドアの隙間を広げようとする。  その瞬間、目の前が真っ黒に塗りつぶされた。
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