七月九日 火曜日

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 この猫、見かけは小柄でかわいらしいが、中身は図太くたくましい。直人の苛立ちなどものともせずに、シーツの上でのんびりくつろいでいるから、いっそ感心してしまう。 「あのなぁ、毎朝毎朝、おれの腹をトランポリンか何かと勘違いしてない? ったく、お前が乱暴になってきたのって、やっぱり飼い主のせい?」 「何が俺のせいなんですか?」  窓の外からかけられた冷たい声に、直人はぎくりと身体をこわばらせた。  恐る恐るベッドの真横にかかった、濃紺のカーテンを開く。すると窓ごしに見える隣家の一室で、黒髪の少年が仁王立ちしていた。  凛々しく整った顔を不機嫌そうにしかめられると妙に迫力があって、この春高校に入学したばかりとは思えない。ほんとは直人の方が一学年上なのに、上から見下ろされ、面倒くさそうに話しかけられると、つい腰が引けてしまう。  ほんの数年前までは子猫のようにじゃれあって遊んでいたのに、今ではすっかり遠い存在になってしまった幼馴染み、遠野静(トオノシズカ)が直人を睨みつけていた。
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