七月十日 水曜日

2/40

210人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 鋭い目に焦りを浮かべてこちらを覗き込む幼馴染み。その珍しい切羽詰った顔を見て、不意に緊張の糸がほどけた。 「静……」  恐る恐る健康的に日焼けした頬に手を伸ばす。昨夜とは違って腕は自由自在に動くし、ちゃんと静に触れることも出来る。 「直人?」 「よかった……静……」  指先から伝わる確かな熱に安堵して、自然と深い吐息が漏れた。  自分が挙動不審なのは重々自覚している。静もきっと反応に困るだろうと思う。  だが、黒々とした瞳が訝しげな色を浮かべたのは一瞬だった。頬を撫でる直人の手をためらうことなく掴んで、引き寄せてきた。  そして、ぎゅっと直人の肩に腕を回して抱きしめる。 「大丈夫。何があっても俺が居る」  近い距離で落とされた言葉と、慣れ親しんだ匂い。まるで、今みたいに刺々しくなってしまう前の、やさしいばかりだった静に戻ったみたいだった。  背を囲む体温に身を任せていると、ようやく気分が落ち着いてきた。それと同時に初夏の暑さを思い出し、そういえば汗をかいているんじゃないかとか、今さらながらに気になってきた。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加