七月十日 水曜日

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 静はクロが逃げ出したことに気づいていないのか、目を見開いてこちらを凝視してくる。 「だから、おれウィルになったとき、聞いちゃったんだよ! お前が男に告られてるとこ!」  重ねて告げるが、静は真顔で首を振る。 「そんなことはありませんでした」 「嘘つくな!」 「嘘じゃありません。昨夜は先輩が寝た後、俺も部屋に戻りました。その後誰もうちには来ていない。誓ってもいい」  白々しく胸に手を当てて答える静は堂々としていて、まるで後ろめたいことなんて何一つないみたいだ。本気で正直に答えてくれるつもりがないのだと分かって、直人の心は沈みこんだ。  どうして嘘をつくんだろう。  ひょっとして、直人には言えないような返答をしたからだろうか。  たとえ静が同性と付き合うことにしたって、軽蔑したり、誰かに言いふらしたりしないのに。  そんなことも信用されていないのかと、悔しくて直人は唇をかんだ。 「だいたい、俺は告白されて困るような相手と夜中にふたりっきりになったりしない」  静は縁起でもない、とでも言うように、眉を顰めて木製のベッドヘッドを拳でノックする。
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