七月十日 水曜日

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「ムカつく。いかにもモテるやつの発想だよな、それ」  思わず漏れた本音を聞くなり、静は不愉快そうな顔になった。 「先輩には俺の気持ちなんて、分からない」  さっきまで心配してくれていたのが全部嘘みたいに、静の口から出た声は冷たかった。密着していた身体を離し、ベッドの上に膝立ちになり、こちらを見下ろしてくる。  ほんの一歩離れただけなのに、心まで遠く離れてしまった。  その距離をさみしいと感じるのは、直人だけなのだろう。昔のように、仲が良かったころの関係に戻りたいと思っているのも。  何とか気にしていないそぶりを装って、静に笑いかける。 「後で遠野の部屋に行っていい? おれ、ウィルになったとき、お前の部屋がどんな風だったかしっかり覚えてる。もし夢や妄想だったら、きっと違う。証明できる」 「絶対嫌です」  精一杯明るい声で言ったのに、静の返事はにべもない。 「何でそんな意地悪なんだよ! お前はおれの部屋に勝手に入り浸ってるくせに」  恨みがましく睨みつけたが、静はどこ吹く風だ。  振り返りもせずに窓に向き直り、さっとカーテンを開ける。急に差し込んできた眩しい朝日に目が眩んだ。
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