七月十日 水曜日

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「別に意地悪で言ってるわけじゃない。……先輩もそろそろ準備しないと、遅刻しますよ」  静はため息をつくと、心配して損した、とでも言いたげな顔で身軽に窓枠を乗り越え、部屋から出て行った。  その後姿を見送って、ぎゅっとブランケットを握り締める。  ついさっき感じた頼りない絆は、煌々と差し込む陽の光の中にかき消えてしまった。  汗ばんだ髪をかきあげ、翻るカーテンを睨みつけた。  思いがけず、朝から時間を食ってしまった。  何とか朝食を腹に詰め込んで、急ぎ家を出る。  気まずい別れ方をしたので居ないかな、と思ったけれど、予想に反して静は昨日と同じように家の前で待っていてくれた。 「遠野、」 「行きますよ」  いつも以上に不機嫌そうな顔で言われると反発心がこみ上げてきて、つい何か一言文句を言いたくなる。  だけど炎天下の日差しの下待っていてくれた静の首を伝う汗が目に入ると、おとなげない言葉は喉の奥に引っ込んだ。  静が素直じゃない分、こちらが譲歩するのはいつものことだ。 「うん、ありがと」  ため息を飲み込んで、バス停へ歩き出す。 「早く試験期間終わって欲しいよなー」
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