七月十日 水曜日

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「俺は別にどうでもいいですけど」  ぎこちない空気は学校へ向かう間に、いつのまにか霧散していた。こういうところが、幼馴染みの強みだと思う。  バスを降り、校舎に入る静について歩く。  不思議そうに振り返る静に、おっかなびっくり直人は尋ねた。 「なぁ、お前のクラス見に行っていい?」  静は否定したけど、確かに直人は昨夜、静が告白される現場に居合わせた。そして、その相手は直人の知らない男だった。  静のことが好きな男を見つければ、昨日直人が本当にウィルになってしまったという証明にならないだろうか。  男の顔は見ていないけど、声を聞けば絶対に分かる自信があった。あの、熱を孕んだ余裕のない声は、ちょっとやそっとじゃ忘れられそうにない。 「はぁ? まぁ好きにしてください」  突飛な申し出に静は怪訝な顔をしたが、特に止める気はないようだ。  だけど当然気遣ってくれることもなく、広いストライドでずんずん進むので、急ぎ足で追いかけなければならなかった。  直人たちの通う緑ヶ丘高校の一年生は、四階建ての校舎の一番上の階に教室が並んでいる。テスト期間中ということもあって、生徒はみなどこか浮き足立っていた。
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