七月九日 火曜日

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 直人と静は親が同じ会社に勤める転勤族同士で、隣り合った社宅に住んでいる。間取りのよく似た家屋に住むふたりの部屋は、窓を挟んで向かい合わせだ。窓を開けてお互いに手を伸ばせば、届くほどに近い。  仲が良かったころは、その近さが嬉しかったけれど……険悪になってしまった今となっては、気まずいばかりだ。  部屋を移ることを何度も考えたけれど、狭い社宅ではそう部屋数もない。それに何より、静との確執を認めるようで、踏み切れなかった。 「ほら、手ぇ出してください」  低い声に促されて自然と落ちていた視線をあげると、静が橋本家の飼い猫であるクロを抱いていた。 「あ、ごめん。またそっち行ってた?」  クロはウィルの兄弟猫だが、見た目も性格もまるで似ていない。  ウィルが茶トラなのに対して、クロは黒くつややかな毛並みを持っている。甘えん坊なウィルと違い、クロは構われるのが好きじゃない。まさに孤高という言葉が良く似合う、直人の自慢の愛猫だ。
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