七月十日 水曜日

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 静のクラスの入り口付近に居た篠塚の腕を引っ張って、邪魔にならないように廊下の隅に寄る。  手を離したらすかさず数歩後ずさったので、ガッチリ腕を捕まえて見上げる。 「先輩が話しかけてるのに逃げるなよ」 「近い! 近いです!」 「はぁ? 普通だろ。失礼なやつだな」  別に非常識だと言われるほど接近しているわけではない。ごく当たり前の距離感なのに心底迷惑そうな顔をされ、地味に傷ついた。 「いやまぁ普通はそうなんですけど、橋本先輩の後ろに普通じゃないやつがひとり居るんで……!」  篠塚は言いづらそうに直人の背後に目をやった。つられて振り返ると、険しい顔で静が篠塚を睨みつけている。  少し驚いて静の袖を引き、小声で尋ねた。 「……遠野、篠塚と喧嘩でもしてんの?」 「いいえ。ただコイツの顔が生理的に受け入れられないだけです」 「……あぁ、」 「ちょっと橋本先輩?! 何納得してるんですか、そんなわけないですからね!?」  うなずくと、篠塚がちょっとおおげさなくらい血相を変えて突っ込んできた。ノリの良い後輩でありがたい。
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