七月十日 水曜日

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 もともと無愛想でとっつきやすいとは言いがたいが、このタイミングで真顔になる意味が分からない。笑いかけた直人は笑顔のまま固まった。  静は凍りついた直人が見えていないかのようにスルーして、篠塚の頭部に手を伸ばした。 「えっ、これって俺のせい? 違うだろ! 橋本先輩ヘンな照れ隠しは止めてください!」  無言で伸ばされた手のひらを機敏に避けた篠塚は懸命だ。バスケットボールを片手で持てる握力とサイズを誇る、あの手でアイアンクローをきめられると心底痛い。  窮地を脱した篠塚は、挨拶もそこそこに教室の中へと逃げ込んでいった。その様子を忌々しげに見送った静は直人の両肩を掴んで念を押した。 「いいですか、俺は彼女なんていませんからね」 「お、おれは別にどっちでも気にしないから大丈夫だぞ?」 「…………そうですか」  フォローしてみたつもりが、余計に荒みきった顔になった静が怖い。つい後ずさりたくなったが、肩に手を置かれたままではそれも叶わない。  ものすごくイライラしているみたいだから、もし人目のないところだったら直人までプロレス技を掛けられていたかもしれない。ここが学校の廊下で本当によかった。
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