七月十日 水曜日

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 スプーンでひとくちすくって口に運びながら、静は投げやりに切り出した。その顔には面倒くさい、と書いてある。  聞いて欲しい気持ちは大いにそがれたが、ここで挫けたりしていたら八年も静の横にはいられない。  ベンチの背もたれにひっくり返るようにもたれ、青い空を見上げながら指折り数える。 「そりゃ、いっぱいあるよ! お前、猫になるってことについてちゃんと考えたことある? ウィルになるのは昨日の一度きりでおしまいなのか、またなることもあるのか。もしなっちゃったとして、次もし元の身体に戻れなかったときどうしようとか。おれがウィルになってる間、おれの身体はどうなっているんだろうとか……ひょっとしておれがウィルになってる間、ウィルがおれになってるのかな、とか」 「……そういえば、橋本先輩ってけっこう心配性でしたね」 「誰だって心配するだろ! もしおれが突然這いつくばってにゃあにゃあ鳴きだしたらどうする!?」  想像するだけでも空恐ろしい。本来は気持ちいいはずの、冷たいアイスが喉を通る感覚にすら、背筋がぞっと冷えた。しかしなぜか静は苦悩を語る直人を見つめて微笑んでいる。
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