七月九日 火曜日

4/28

210人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 静には全く懐いていないのに隣家にいたのは、兄弟であるウィルに会いに行ったのだろう。お目当てのウィルに会えず、クロは機嫌が悪そうだ。半そでのTシャツから伸びる筋肉質な腕に抱かれ、爪を立てている。  慌てて手を伸ばすと、静はクロをそっと直人の手の中に下ろした。黒猫は身軽に直人の腕を駆け上り、肩を伝って部屋へと入って行った。  クロを渡し終えても、静は直人の手を放そうとしない。 「…………」  イケメンに無表情で手を握られると怖い。  反射的にへらりと笑いかけてみたが、静は気難しい顔で黙り込んだままだ。  おもむろに眉間の皺を深くし、掴んでいた直人の手を――……、 「痛い痛い痛いいたい!」  ぎゅうぎゅうと渾身の力をこめて握ってくるからたまらない。  悲鳴をあげた直人を楽しそうに睥睨し、歌でも歌うような口ぶりで尋ねてくる。 「誰が乱暴でふてぶてしいって?」 「まさに今! 現行犯だろ!?」 「繊細な俺の心を傷つけた罰」 「心っていうか、物理的におれの手がダメージ受けてるんだけど!」 「形ないものの方が償うのって難しいと思いません?」 「ごめん! ごめん悪かったってば」
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加