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静には全く懐いていないのに隣家にいたのは、兄弟であるウィルに会いに行ったのだろう。お目当てのウィルに会えず、クロは機嫌が悪そうだ。半そでのTシャツから伸びる筋肉質な腕に抱かれ、爪を立てている。
慌てて手を伸ばすと、静はクロをそっと直人の手の中に下ろした。黒猫は身軽に直人の腕を駆け上り、肩を伝って部屋へと入って行った。
クロを渡し終えても、静は直人の手を放そうとしない。
「…………」
イケメンに無表情で手を握られると怖い。
反射的にへらりと笑いかけてみたが、静は気難しい顔で黙り込んだままだ。
おもむろに眉間の皺を深くし、掴んでいた直人の手を――……、
「痛い痛い痛いいたい!」
ぎゅうぎゅうと渾身の力をこめて握ってくるからたまらない。
悲鳴をあげた直人を楽しそうに睥睨し、歌でも歌うような口ぶりで尋ねてくる。
「誰が乱暴でふてぶてしいって?」
「まさに今! 現行犯だろ!?」
「繊細な俺の心を傷つけた罰」
「心っていうか、物理的におれの手がダメージ受けてるんだけど!」
「形ないものの方が償うのって難しいと思いません?」
「ごめん! ごめん悪かったってば」
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