七月十日 水曜日

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「直人? おかえり。静くんはもう帰っちゃった? お昼ご飯いっしょに食べていかないかしら」  開口一番で静の名を出され、何となく面白くない。 「母さんはあいつの外ヅラの良さに騙されているんだからな……!」  噛み付くように言うと、母親はむっとした様子でエプロンをつまんだ。少女のような外見に反してシンプルな服装を好む母が、いかにも好きそうな無地のエプロンだ。見せ付けるように目の前に突きつけてくるから、余計にイラっとする。 「何だよ」 「このエプロン、去年の誕生日に静くんがくれたの」 「…………」  二の句が継げずに黙り込むと、母親は腕を組んで直人を睨み上げる。ちなみに母はずいぶんと小柄だ。八つ当たりかも知れないけど、直人の身長が伸び悩んでいる原因はこの母親の遺伝子のせいな気がして、このごろ特に恨めしい。 「何を膨れてんのよ。あんたにはもったいないくらい、出来たお友達じゃない。やさしくて、気遣いも出来て、その上イケメンで」 「だから、やさしかったのは昔の話で、今はあいつすっごく意地悪なんだってば!」
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