七月十日 水曜日

27/40
前へ
/165ページ
次へ
 母親の言う通り、昔の静はそりゃあもう直人に優しかった。誰かれ構わず愛想を振りまくようなタイプじゃないけど、格好よくてみんなに頼られる、クラスの人気者だった。  それが、いつの間にあんなに嫌味ばかり言う暴力的なやつになってしまったんだろう。  イギリスに居たころの静を脳裏に思い出して、直人はため息をついた。 ***  直人が父親の転勤について渡英したのは、八歳の夏休みのことだった。  直人の両親は、いつか来るイギリス転勤に備えて、直人が幼いころから英語を教えてくれていた。その甲斐あって、イギリスに移住した時点で日常会話くらいなら何とかなったけれど、ネイティブの会話スピードについていくのは正直厳しかった。  それでもペーパーテストと面接にパスした直人は、九月の新学期から現地の公立の小学校に転入することに決まった。  ご近所さんや店員さんとの会話も、かろうじて成り立つくらいなのに、同級生と対等に付き合うことなんて出来るのだろうか。持ち前の心配性が祟って、新学期が近づくにつれ憂鬱になっていく直人に、母は励ますようにクラス名簿を取り出した。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加