七月十日 水曜日

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「大丈夫よ。直人のクラスにお父さんの同僚の息子さんも通っているの。ほら、この子、日本人でその上トリリンガルらしいわよ。何か困ったことがあれば頼りなさい」  トリリンガル、とは三ヶ国語を自由に操る者のことだ。そんな超人がこの世に存在するとは、にわかには信じがたい。  母の指差した箇所をみると、確かにアルファベットで「SHIZUKA TONO」と書いてある。エマだのリアムだのといった、いかにもカタカナっぽい名前が並ぶ中、明らかに日本人だと分かる名前に、直人はほんの少し胸を撫で下ろした。 「それに、もし本当にたいへんだと思ったら、ホームスクールにしてもいいんだし」  肩を叩いてにっこり笑う母に、直人も意識して明るい声を出した。  いつまでもうじうじしているなんて、自分らしくない。 「平気だよ。おれどう見てもアジア人だし、みんなも気を遣ってくれるかもしれないね」
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