七月十日 水曜日

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 しかし、直人の希望を多分に含んだ楽観的な予測は、悪い方向に裏切られた。イギリスにはアジア系イギリス人も数多く、見た目だけでは全く判断が出来ない。話しかけられれば一応受け答えは出来るものの、スローペースな直人は、それが言語のせいだとは理解してもらえず、クラスメイトに馴染めずにいた。  もともと日本にいたときは明るく友達が多かった直人にとって、大勢の中でひとりでいることはとてもさみしい。  だから、教室に長身の、だけど明らかに日本人だと分かる少年が入ってきたときには安堵のあまり泣きそうになってしまった。  他のクラスメイトのシズカ、と呼びかける声を聞いて、やっぱりこの少年が父の同僚の息子なんだと確信する。 「なぁ、遠野くん、おれ、橋本直人、っていうんだけど、親からおれのこときいてない? みんなしゃべるスピードが速すぎて、おれ聞き取るのがやっとで……」  急いで駆け寄って、手をとりまくし立てた直人を見下ろし、静はぎょっとした顔になった。すぐさま手を振り払い、気味の悪そうな顔で一歩離れる。 “ナオト? あぁ、日本から来たっていうのが君か。何の用?”
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