七月十日 水曜日

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 しかも、返事をしてくれたと思ったら英語だった。距離を取ろうとしているのがあまりにもあからさまで、直人はまた涙腺が緩みそうになるのを何とか堪える。 “おれ、まだこっちに来たばかりで不安で……、”  静に合わせて何とか英語で返すが、内心ではもう英語はうんざりだった。ようやく日本人に会えたのだから、日本語でストレスなく好きなだけ話せると思ったのに。 “あ、そう。じゃあ、困ったことがあれば誰かに聞けよ”  静は訛りの強い直人の英語を笑いもしなかったが、特別親切にもしてくれなかった。クラスメイトに声をかけられ、連れ立ってどこかへ行ってしまう。  それから仲良くなってからも、イギリスにいる間、静が日本語で話してくれることは一度もなかった。その理由を知るのは、たまたまふたりの父が同時に帰国することが分かってからになるのだが……。 *** 「あれ、そういえば、あいつ出会ったころは冷たかったな」  今みたいに向こうから押しかけてこない分、余計に取り付く島もなかった。だけどあの頃直人は、日本人である静を特別頼りにしていて、多少邪険にされてもそばに居たかった。
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